戸隠地質化石博物館の日記

博物館周辺での日々のできごとを、地質、植物、動物などの各担当者が書いていく日記です。

ヤッコソウ

今日はイベントで色々な動物のホネを勉強する「ホネってすごい!」が行なわれたり、柵小学校時代の先生方が集まって旧館から荷物を運ぶ作業があったりと、いろいろ面白かったのですが、いかんせん写真を撮る暇がなかったので、代わりに先日旅行してきた四国でのことをご紹介します。

お目当ては暖地の植物です。黒潮に洗われる高知県側は11月下旬だというのにさすがに暖かく、うっそうとした照葉樹林に圧倒されてしまいました。今回の一番の目的はヤッコソウです。世界最大の花、ラフレシアと同じ仲間で、シイの木の根に寄生する寄生植物として知られています。日本では、徳島県高知県、九州、沖縄に分布していますが、そうどこにでもある植物ではありません。

事前に調べておいたシイの森に入ると、登山道沿いにたくさんのヤッコソウがひしめいている群落をすぐに見つけることができました。これが実物か!と感慨ひとしおでした。名前の通り「やっこさん」に似ていて、今にも動き出しそうです。図鑑などで写真はよく見ていたのですが、実物はわりあい小さく、3〜5cmくらいしかありませんでした。
真ん中の突き出た部分が雌しべで、黒くなっている先のところが柱頭です。私がであったヤッコソウは花の時期がほぼ終わりで、本来は全体が白っぽい色をしているそうです。

数本だけ、まだ雄しべを残している花をみつけました。写真の左側の、先端に黄色い粉をふいているようなのが雄しべです。花粉を出し終わると、キャップのように雄しべがとれて、中から雌しべが出てくるしくみになっています(写真の右側)。オスの時期とメスの時期が別々なんです。(周りにたくさんおちているのが寄生されているシイの木のドングリです)

ヤッコソウは花びらはなく、横に突き出た葉(と言っても光合成をしないので、白くちいさなものですが)のすき間に蜜を出しています。この甘い蜜に魅かれてスズメバチがやってきて、受粉をするそうです。時期が遅かったからか私はアリが来ているのしか見ることができませんでしたが、確かに蜜はほんのり甘かったです。
お目当ての植物に出会うことができて、本当によかったです。四国まで行ったかいがありました。長野に帰ってからも、こんな風変りな植物が、今も南国の森にひっそり咲いているのかと思うと、本当に楽しくなります。私たちが訪れた自生地は地元のかたによって保護されているようで、ロープがはってありました。いつまでもこの愛らしい植物が咲き続けてほしいものだと思います。